食あたりや消化不良、下痢などの時に服用する正露丸。あの独特のにおいの元であり、正露丸の主成分「木クレオソート」がアニサキスの運動を抑制する──。正露丸を製造販売する大幸薬品(大阪市)がこんな研究結果を発表したのが2011年だ。14年には、同社は正露丸・アニサキス関連の特許を取得している。21年、アニサキスと正露丸について新たな研究発表をしたのが、高知大学理工学部の松岡達臣教授らの研究グループだ。このたびさらなる調査結果も発表したので、それも含めて紹介しよう。
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アニサキスは、寄生虫の一種。アニサキスが寄生している魚介類を刺し身や不十分な加熱で食べると、アニサキスによる食中毒を起こしかねない。
「正露丸がアニサキスの運動を抑制するというのは、アニサキスが麻痺して動かなくなっているのではなく、死んでいるのではないか? それを突き止めた論文がなかったので研究を行いました」(松岡教授=以下同)
松岡教授らはまず、30㏄の液体に3錠の正露丸を溶かした。30㏄というのは空腹時の胃液の量と同等で、「1回3錠」という正露丸の用量に従った。そこにアニサキスを30分間浸し、トリパンブルー染色を行った。
「トリパンブルー染色は、細胞が死んでいるかを判定する方法で、死んでいる場合青く染まります。正露丸処理で動かなくなったアニサキスは、トリパンブルー染色24時間後には90%が、48時間後には100%が青く染まり、死んでいることが明らかになりました」
アニサキスは胃酸や胃の消化酵素に耐性があり、胃の中でも1週間近く生きられる。トリパンブルー染色で青く染まった(死んだことが確認された)アニサキスは、その後どうなるのか?
松岡教授らは、胃液と同じ濃度のペプシン液(胃液のモデルでタンパク質を分解する)に「正露丸処理したアニサキス」と「何もしていないアニサキス」を入れた。
すると、正露丸処理したアニサキスは24時間以内に分解が始まった。一方、何もしていないアニサキス(生きたアニサキス)は元気に動き続けた。
■2~3分で痛みが消えたという声も
「正露丸が完全に胃の中で溶けている状況であれば、アニサキスを正露丸の通常の服用量で殺すことができる。つまり、アニサキスの食中毒対策になる可能性がある。この発表は話題になり、SNSで盛んに取り上げられました。そこで私は、2015年4月4日から23年6月13日までにSNSに投稿されたアニサキスに対する正露丸の効果についての投稿を見つけられるだけ見つけ出し、分析を行いました」
記述が曖昧な数例は除き、松岡教授が見つけたのは56件。内容を分類すると、「正露丸を飲むことで、アニサキスによると思われる症状が著しく和らいだ/症状が消えた(=効果あり)」という投稿が33件で59%、「多少効果があった」が13件(23%)、「全く効果がなかった」が10件(18%)だった。
「効果あり」の具体例をいくつか挙げると、「刺し身を食べた後、強烈な胃痛が周期的に襲ってきた。正露丸を飲んだところ、2~3分で痛みが消えた」「カツオの刺し身を食べた後、真夜中に強烈な胃痛に襲われた。正露丸を飲むと、翌日病院に行くまでに痛みはほぼ消えた。病院で検査をした結果、動きが止まったアニサキスが見つかり、動いていないので簡単に除去できた」。
また「多少効果あり」では、「1日は正露丸で我慢できた。次の日には病院で除去してもらった」「痛みが3分の1まで和らいだ」というものだった。
「正露丸が十分に溶けていても、アニサキスが胃の壁の奥深くに入り込んでしまえば、正露丸が溶けた胃液にアニサキスが十分に浸らないので、死なずに生き続けるのではないか。正露丸を飲んでもすぐに痛みが治らなければ、追加して正露丸を飲んだりせず、速やかに病院へ行くべきです。アニサキス以外の可能性もあるので、痛みが治ったとしても、念のため受診することもお勧めします。ただ、正露丸がアニサキスによる食中毒の唯一の薬になり得ることは、間違いないと感じています」
刺し身を食べる人は、正露丸の常備を。
世界保健機関(WHO)は2023年に、身近な人工甘味料であるアスパルテームに発がん性がある可能性を警告しました。さらに、虫歯予防効果があることからガムなどによく使われる甘味料のキシリトールの摂取量が多いと、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患のリスクが増加することが、新しい研究で判明しました。
キシリトールは、アスパルテームをはじめとする人工甘味料とは異なり、樫の木などから抽出される天然甘味料です。また、砂糖に比べて低カロリーで虫歯の原因にもならないことから、健康的な甘味料として砂糖不使用の菓子や歯磨き粉などに広く使用されています。
クリーブランド・クリニックのラーナー研究所の心臓血管・代謝科学部門長であるスタンリー・ヘイゼン氏らの研究チームは、2024年6月6日にEuropean Heart Journalで発表した研究で、血中キシリトール濃度と心血管イベント(MACE)の関係を調べました。
その結果、キシリトールの摂取量が最も多いグループに属する人は、脳や心臓の血管に関する疾患の発生率がほぼ2倍になることがわかりました。
ヘイゼン氏は「キシリトールが入った一般的な飲料を健康なボランティアに飲んでもらったところ、キシリトールの血中濃度が1000倍に上昇しました。砂糖を摂取すると血糖値が10~20%上昇することがありますが、1000倍にはなりません。かつて、人類はこれほど高い濃度でキシリトールを摂取していませんでしたが、キシリトールを砂糖の代わりに使った加工食品を食べるようになったここ数十年は例外です」と話しました。
ヘイゼン氏が率いる研究チームは2023年に、キシリトールと同じ糖アルコールであるエリスリトールが、脳卒中のリスクを高めることを突き止めています。
今回の研究で、ヘイゼン氏らはアメリカとヨーロッパの成人3300人以上を対象に、血液サンプルに含まれるキシリトールの濃度を測定しつつ、3年間追跡して心血管イベントリスクの発生率を調べました。
その結果、血中キシリトール濃度が最も高い参加者の3分の1は、心血管疾患を発症する可能性が高いことが突き止められました。
この発見を検証するため、研究チームが追加の実験を行ったところ、キシリトールが血小板を凝固させて血栓症のリスクを高めることがわかりました。また、キシリトール入り飲料とブドウ糖入り飲料を摂取した人の血小板の機能を調べた結果、キシリトールを摂取した直後に凝固作用が大幅に上昇した一方、ブドウ糖では上昇しないことも確かめられました。
ヘイゼン氏は、キシリトールの安全性を調べるためのさらなる研究が必要とした上で、「キシリトールが入った歯磨き粉を捨てろというわけではありませんが、キシリトールを多く含む製品を摂取すると血栓にまつわる疾患のリスクが高まることは知っておくべきです」と話しました。
10年ほど前に話題になったDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食。それが今、塩分を排出させる食事として再注目されているようだ。DASH食とは、飽和脂肪とコレステロールの少ない果物、野菜、ナッツ・豆類、低脂肪乳製品、全粒穀類を豊富に摂取することで降圧効果が期待される“塩分の排出に重点を置いた食事療法”で、米国・国立衛生研究所(NIH)などが考案したのを契機に、国内の高血圧治療ガイドライン2019年版1)でも推奨されている。また、この食事療法に減塩を組み合わせたものはDASH-sodium食と呼ばれ、これまでに十分なエビデンスが報告されている2,3)。
しかし、日本人の食事パターンの観点から、塩分の取り過ぎを抑える“減塩”に重点が置かれる傾向にあり、「排塩を意識した高血圧対策」が進んでいないのが現状である。そこで今回、有馬 久富氏(福岡大学医学部衛生・公衆衛生学 主任教授)が、日本特有の四季折々の食事「和食」(日本人の伝統的な食文化)4)を大切にしながら、旬の食材を用いた排塩コントロールの実践を促すために、塩分の排泄を促すカリウムや食物繊維、血圧調整を担うカルシウム、血圧上昇抑制に影響するマグネシウムなどが豊富に含まれている初夏~夏の食材を紹介した。
●カリウム
トマト、レタス、なす、ズッキーニ、きゅうり、オクラ、ししとう、新じゃが、ゴーヤ、枝豆、アボカド
●カルシウム
とうもろこし、オクラ、ししとう、つるむらさき、モロヘイヤ、アジ、アユ
●マグネシウム
とうもろこし、オクラ、ししとう、ゴーヤ、枝豆、アボカド、わかめ、冷ややっこ
●食物繊維
とうもろこし、なす、オクラ、ゴーヤ、セロリ、枝豆、アボカド、くらげ
●タンパク質
カツオ(戻りカツオ)、枝豆、そら豆
<お薦めの調理方法>
・トマト、ズッキーニ、なすなどの夏野菜をトマト缶+少量だしで煮込む(ピザ用チーズや鶏肉を追加してもおいしい)
・刻んだきゅうりをもずくに入れて、冷ややっこにかける
・オクラ、なす、ししとうをゆがき(電子レンジでチンでも)、めんつゆとおかかで和える
・トマトとモッツァレラチーズにオリーブオイルとペッパー/バジルを少しかける
・初夏であれば、新じゃがを牛乳で煮込む
・生で食べられるトマト、きゅうり、とうもろこしにツナ缶を和える(豆腐を入れても)
調理時の注意点としては、「調味料(だしやしょうゆ、塩など)を入れ過ぎない。夏野菜カレーを作る場合は、ルーを入れ過ぎない。また、ゆでるより電子レンジでチンしたほうがカリウムをそのまま取りやすい。マグネシウムの観点から、きゅうりとわかめの酢の物などで海藻類を取るとよい」と同氏はコメントした。
なお、旬の食材を取り入れた食事について、医師が患者へ啓発する際には以下のように「患者の行動変容のステージングに応じて使い分けるのがよい」とも説明した。
無関心期⇒情報提供
(例)「食事を見直すことで血圧が下がりますよ。今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」
関心期⇒動機付け
(例)「どのような食事だと血圧が下がると思いますか? 今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」
準備期⇒行動案・目標設定
(例)「朝も昼も晩も野菜を取るようにしましょうか。今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」
実行期⇒意欲強化
(例)「食事に気を付けられているようで素晴らしいですね。今の季節は○○(レシピ名)がお薦めですよ」
また、この排塩による高血圧対策のプレスリリースを配信したCureApp5)は「高血圧患者さんがアプリの利用を開始すると、最初のステップとして、高血圧の知識を学ぶ。アプリ内のキャラクターが減塩や体重管理、運動などさまざまな項目の中のコンテンツを通じ、減塩のコツなどを教えてくれる。さらに、行動の実践と記録として、降圧に関わる具体的な行動をアプリで提示し、患者さんができそうなものを自ら選択・実践してアプリに記録することができ、その中で減塩や排塩に関する行動も提示される。患者さんがアプリで実践した行動は医師の端末で確認でき、指導に役立てることができる」とアプリの役割についてコメントした。
高齢者は転倒リスクの1つである起立性低血圧が生じやすい。そこで、米国・Rutgers UniversityのChintan V. Dave氏らの研究チームは、降圧薬が高齢者の骨折リスクへ及ぼす影響を検討した。その結果、降圧薬の開始・追加は骨折や転倒、失神のリスクを上昇させた。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年4月22日号で報告された。
本研究結果について、著者らは「降圧薬の開始・追加は、とくに介護施設に入所する高齢者において、骨折リスクを増加させる可能性がある。このことから、降圧薬開始後という骨折リスクの高い期間は、注意深く観察することが勧められる」とまとめた。
超加工食品の摂取量が多いほど、がんおよび心血管疾患以外の原因による死亡率がわずかに高く、その関連性は超加工食品のサブグループで異なり、肉/鶏肉/魚介類をベースとした調理済みインスタント食品のサブグループでとくに強い死亡率との関連性が認められたという。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らによる、追跡期間30年超のコホート研究で示された。超加工食品は健康に悪影響を及ぼすことが示唆されているが、長期間にわたり食事評価を繰り返し行う大規模コホートでの超加工食品摂取による死亡率への影響に関するエビデンスは限られていた。BMJ誌2024年5月8日号掲載の報告。
AHEI-2010 スコアで評価した食事の質と超加工食品摂取量については、AHEIスコアの各四分位範囲内では超加工食品の摂取量と死亡率との間に一貫した関連は観察されなかったが、超加工食品摂取量の各四分位範囲内では、食事の質と死亡率との間に逆相関が認められた。
オリーブ油の摂取と認知症関連死亡との関連はわかっていない。今回、米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのAnne-Julie Tessier氏らが、9万人超の前向きコホート研究を実施したところ、オリーブ油を1日7g超摂取する人は、まったく/ほとんど摂取しない人と比べて、食事の質によらず認知症関連死亡リスクが3割近く低いことがわかった。また、1日5gのマヨネーズを同量のオリーブ油に置き換えると、認知症関連死亡リスクが14%低下すると推定された。JAMA Network Open誌2024年5月6日号に掲載。
この前向きコホート研究は、NHSの女性とHPFSの男性を対象とし、ベースライン時に心血管疾患もしくはがんではなかった9万2,383人を28年間(1990~2018年)追跡した。オリーブ油摂取量は食物摂取頻度調査票で4年ごとに調査し、「摂取なし/月1回以下」「0g/日超4.5g/日以下」「4.5g/日超7g/日以下」「7g/日超」の4群に分類した。食事の質はAlternative Healthy Eating IndexとMediterranean Diet scoreに基づいた。認知症関連死亡は死亡記録から確認した。多変量Cox比例ハザード回帰を用いて、遺伝的因子・社会人口統計学的因子・生活習慣因子などの交絡因子で調整したハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。
主な結果は以下のとおり。
・参加者9万2,383人のうち女性は6万582人(65.6%)、平均年齢は56.4歳だった。
・28年(218万3,095人年)の追跡期間中、4,751人が認知症関連で死亡した。
・アポリポ蛋白Eε4(APOEε4)対立遺伝子がホモ接合体の人は、認知症関連死亡リスクが5〜9倍高かった。
・オリーブ油の7g/日超摂取は、摂取なし/月1回以下に比べて、認知症関連死亡リスクが28%低く(調整後統合HR:0.72、95%CI:0.64~0.81、傾向のp<0.001)、さらにAPOEε4で調整後も一貫していた。
・食事の質による交互作用は認められなかった。
・代替分析において、5g/日のマヨネーズを同量のオリーブ油に置き換えると認知症関連死亡リスクが14%(95%CI:7~20)低下し、5g/日のマーガリンを同量のオリーブ油に置き換えると8%(同:4~12)低下すると推定された。他の植物油やバターをオリーブ油に置き換えた場合は有意ではなかった。
著者らは「この結果は、心臓の健康だけでなく認知関連の健康のために、オリーブ油や他の植物油を選択する現在の推奨を広げるものだ」としている。